港湾工事等における衛星測位では、リアルタイムキネマティック測位(RTK-GNSS)が標準的であり、状況によりディファレンシャル測位、ネットワーク型RTK測位等も使用されます。
- ①ディファレンシャル測位
- ②リアルタイムキネマティック測位
- ③ネットワーク型RTK測位
- ④精密単独測位
ディファレンシャル測位(D-GNSS)は、既知点に設置した基準局からの補正情報を移動局に送信することで、移動体においても安定した測位が可能となります。衛星からの電波に搭載されたコード信号を用いるため、測位精度はメータ級となり、船舶の航行や航空機の運航の用途に向きます。近年は準天頂衛星システムみちびき(QZSS)によるディファレンシャル測位(SBAS)も使用されています。
港湾工事においては、さほど精度を必要としない土砂投入などに利用されます。
リアルタイムキネマティック測位(RTK-GNSS)は、陸上既知点に設置した基準局からの補正情報を作業船などの移動局に送信することで、移動体においても安定した高精度な測位(水平・垂直ともに2cm程度)が可能となります。現場付近に基準局を設置するため、工事基準点等との整合が確実で、高精度で信頼性が高く、港湾工事等で多く利用されています。
とりわけ、高さ(水深)計測を潮位補正によらずに、精密ジオイドデータ(海上保安庁の最低水面モデル)とGNSSを用いて行う高精度3次元測位においては、必須の測位手法となります。
リアルタイムキネマティック測位で設置する基準局には、①GPS機構が設置・管理する基準局(海上GPS測位システム)と、②工事関係者等が特定小電力無線などを用いて独自に設置・管理するローカル基準局があります。多くの作業船では状況に応じて上記の基準局を使い分けることで、各地の港湾工事に対応しています。
ネットワーク型RTK測位(VRS)は、国土地理院の電子基準点を利用して現場付近に仮想基準点を設定し、その位置での補正情報を配信事業者が携帯電話網やインターネットでの通信により提供するものです。測位精度は数cmとされますが、条件によって精度のばらつきがあり、また海上では精度の低下や電波遮断等の懸念があります。基準局設置が不要で、港湾工事等では短期間の利用、基準局の設置が困難な場合などに利用されます。
精密単独測位は、通信衛星からの補強情報により単独測位の精度を高めるもので、準天頂衛星システム(QZSS)による、メータ級の測位補強サービス(SLAS)と、センチメータ級の測位補強サービス(CLAS、MADOCA)等が利用できます。CLASやMADOCAによる測位精度は10cm程度とされ、垂直方向ではさらに精度低下があります。補正データ更新間隔が長い等の課題がありますが、基準局の設置が不要で、広範なエリア(CLASは日本全域、MADOCAはアジア・オセアニア地域等)で利用が可能なメリットがあり、基準局の電波が届かない洋上などでの活用が期待されます。
現在、人工衛星の情報を用いて位置を決定する衛星測位システムには、米国のGPS、日本のQZSS(準天頂衛星システム)、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileo等があり、これら衛星測位システムを総称してGNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)と呼んでいます。
GPS(Global Positioning System)は、もともとは米国が軍事用に開発し、民間利用としても早くから普及した測位システムで、これもGNSSの一つです。現行のGNSS測位は、GPSを含む複数(各国)のGNSSを併用して利用する事ができるようになり、補足できる衛星数が増え、より効率的な測量が可能となります。
各国の運用状況 | ||
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米 国 | GPS | 31機体制 |
ロシア | GLONASS | 28機体制(24機運用中) |
欧州連合 | Galileo | 30機体制(24機運用中) |
中 国 | BeiDou | 50機体制(45機運用中) |
インド | NAVIC | 8機体制 |
日 本 | QZSS | 4機体制(2023年7機予定) |
リアルタイムキネマティック測位(RTK-GNSS)は、測位精度が数cm(水平・垂直とも2cm程度)と高精度であり、また測位対象が移動中でも基地局からの補正情報を受信できるため、海上で高精度リアルタイム測位が必要な作業船に最適な測位技術とされています。
一般的に洋上や多くの港湾工事においては、上空視界が十分に確保できることから、GPS衛星だけで7機~14機程度の衛星が補足でき、十分な測位精度が得られます。現在は、全世界で約140機、日本上空で約50機程度のGNSS衛星が稼働中であることから、複数の衛星システムによるマルチGNSSによって、従来の衛星測位の弱点であった都市のビルの谷間や、港湾のコンテナターミナルなど障害物直近においても測位信頼度の低下を防ぐことができるようになりました。また、GNSS対応により補正情報の利用エリアが、現行の20kmから30km程度まで拡大可能となります。
GPS機構では、現行のGPS基準局に比較し利用エリアが広く、特殊環境下においても高精度な測位が可能となるマルチGNSS基準局への対応を進めているところです。